生命保険を活用した相続税の納税資金対策とは
相続が発生すると、相続税の申告と納税が必要になるケースがあります。相続財産が多額になる場合は、納税資金を準備しておかないと期限までに納税ができないかもしれません。
相続税の納税資金を確保する方法のなかでも、とくに多くの方に活用されているのが「生命保険」です。
今回は、生命保険を活用した相続税の納税資金対策を解説します。
相続税の基礎知識
相続税は、亡くなった人(被相続人)が残した財産を相続したとき、その相続財産に対して課税される税金です。
相続税がかかるケース
相続税はすべての遺産にかかる訳ではなく、正味の遺産総額が「基礎控除額」を超えるとき、超過した部分にかかります。
基礎控除額は「3,000万円+(600万円×法定相続人)」で算出されます。
たとえば、法定相続人が配偶者と子ども2人である場合、基礎控除額は「3,000万円+(600万円×3人)で4,800万円」です。
そのため、遺産の総額が4,800万円を下回っていれば、相続税はかかりません。4,800万円を上回る場合は、原則としてこれを超える遺産に対して相続税がかかります。
正味の遺産総額の計算方法
相続税を計算する際は、まず正味の遺産総額(課税価格)がいくらあるのかを計算します。
正味の遺産総額は、簡単にいえばプラスの相続財産からマイナスの財産などを差し引いたあとの金額です。
プラスの財産に該当するものは、下記の通りです。
- 相続財産:現金、預貯金、土地、建物、借地権、株式、投資信託など
- みなし相続財産:生命保険の死亡保険金、死亡退職金など
- 相続が開始される3〜7年前に生前贈与された財産
※相続・遺贈(遺言により相続人ではない人に遺産を贈ること)で財産を取得した人が対象
- 相続時精算課税制度を適用して贈与された財産
一方、プラスの財産から差し引けるマイナスの財産としては、被相続人が残した借入金や未払金などが該当します。
また、相続人が支払った葬式費用、遺体や遺骨の回送にかかった費用、お通夜の費用なども差し引くことが可能です。
たとえば、相続財産が2億円であり、被相続人が残した債務が500万円、相続人が負担した葬式費用が150万円だとしましょう。
この場合、正味の遺産総額は「相続財産2億円−債務500万円−葬式費用150万円=1億9350万円」となります。
生命保険を用いて納税資金を確保する方法
正味の遺産総額が基礎控除額を超える場合、期限までに相続税を申告し必要に応じて納税もしなければなりません。
基本的には、相続財産が多ければ多いほど相続税の負担も重くなります。相続が発生すると、相続人に多額の相続税が課せられる可能性がある場合は、事前に納税資金を準備しておくことが大切です。
ここでは、納税資金の確保が必要な理由や生命保険を用いて納税資金を確保する方法を紹介します。
納税資金の確保が必要な理由
相続税の申告期限は、被相続人の死亡を知った日(通常は被相続人が死亡した日)の翌日から10か月以内です。この日までに相続税の申告と納税を済ませなければなりません。
また、相続税は現金での納付が原則です。遺産が多額であると、相続税の申告期限までにまとまった納税資金を準備する必要があります。
多額の遺産があったとしても、相続税の納税資金をスムーズに準備できるとは限りません。
たとえば、遺産の大半を土地や建物などの不動産が占めていると、換金に時間がかかり相続税の申告期限までに納税資金を準備できないリスクが高まります。
期限までに相続税の申告や納税を済ませないと、無申告加算税や延滞税といったペナルティが課せられてしまいかねません。
相続財産が多額であり、相続税の負担が重くなると想定される場合は、生前に納税資金を準備しておくのが望ましいのです。
生命保険が納税資金の確保に役立つ理由
生命保険が納税資金対策に用いられやすい主な理由は、受取額のうち一定金額まで相続税が非課税となるためです。
被相続人が契約者(保険料負担者)と被保険者である生命保険の死亡保険金は、みなし相続財産として相続税の課税対象になります。
しかし、死亡保険金を相続人が受け取ったのであれば、下記の計算式で算出される非課税限度額には相続税がかかりません。
- 非課税限度額:500万円 × 法定相続人の数
たとえば、法定相続人が妻と子ども2人の合計3人である場合「500万円 × 3人=1,500万円」までの死亡保険金は相続税の課税対象外となります。
また、生命保険にはすぐにまとまった現金を調達できるという利点もあります。
被相続人が死亡した際、受取人に指定されている相続人は、保険会社に請求をすることで速やかに保険金を支払ってもらえるため、納税資金を速やかに準備しやすいのです。
生命保険で納税資金を準備するときの保険金額の決め方
生命保険で相続税の納税資金を準備するときは「相続財産完全防衛額 」を計算したうえで、死亡保障額を決めると良いでしょう。
相続財産完全防衛額とは、相続財産に手を付けることなく、相続税のすべてを保険金で賄うことができる死亡保障額を指します。
法定相続人が被相続人の配偶者と子どもである場合、相続財産完全防衛額の目安は、下記の通りとなります。
〇相続財産完全防衛額の目安
遺産総額※1 | 相続人 | ||
配偶者+子ども1人 | 配偶者+子ども2人 | 配偶者+子ども3人 | |
1億円 | 385万円 | 315万円 | 263万円 |
2億円 | 1,788万円 | 1,350万円 | 1,218万円 |
3億円 | 4,075万円 | 3,149万円 | 2,635万円 |
※1.相続税の基礎控除額を差し引く前の課税価格
※2.上記の金額は配偶者の税額軽減のみを考慮して計算しているため、実際とは異なる場合があります
たとえば、遺産総額が3億円であり、法定相続人が配偶者と子ども3人の合計4人である場合、相続財産完全防衛額は2,635万円です。
この場合、死亡保障額を2,635万円にして生命保険に加入すると、相続が発生したときは、受け取った保険金で相続税のすべてを賄うことができます。
このように、相続財産完全防衛額が分かれば、相続税の納税資金を過不足なく準備しやすくなります。
とはいえ、正確な金額を試算するためには、税金に関する専門的な知識が必要です。
そのため、相続税の納税資金準備を目的として生命保険に加入する際は、税理士やファイナンシャルプランナーなどに相談をすると良いでしょう。
納税資金対策のための生命保険は掛け捨て型?貯蓄型?
生命保険には「掛け捨て型」と「貯蓄型」の2種類があります。
掛け捨て型は、途中で解約しても解約返戻金はないかあってもごくわずかである代わりに、保険料は割安です。
一方の貯蓄型は、保険料は割高ですが、途中で解約すると解約返戻金を受け取れるほか、商品によっては満期を迎えたときに保険金を受け取ることも可能です。
相続税の納税資金を準備する際に用いられることが多いのは、貯蓄型保険の一種である一時払終身保険です。一時払終身保険は、一生涯にわたって死亡と所定の高度障害状態に備えられる生命保険であり、加入時に保険料を一括で支払います。
しかし、一時払終身保険は、保険料負担が重くなりやすい点に注意が必要です。
たとえば、資産の大半を不動産が占めていると、保険料の支払いによって手元の現金が著しく減ってしまい、老後の生活資金などが不足するかもしれません。
そこで、貯蓄型保険の保険料を支払う現金の確保が難しい場合は、保険料が割安な掛け捨て型の生命保険に加入して納税資金を準備するのも1つの方法です。
生命保険で相続税の納税資金を準備するときは、生命保険会社や保険代理店の担当者によく相談し、保有する資産の状況や家族構成などに応じた商品を選ぶことが大切です。