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医師賠償責任保険のリスクマネジメント 〜医師賠償責任保険の加入・変更〜

賠償責任の分野開業時のリスクマネジメント 2024-01-23

勤務医から開業医になると、院内での医療事故や医療過誤が生じたときの責任が大きくなります。

また、院長には開設者・管理者責任もあるため、クリニックで勤務する医師が医療事故を起こしたときや、院内の施設・設備が他人に危害を加えたときも、賠償責任を問われてしまう恐れがあります。

そこで検討したいのが、院内での医療事故などに備えられる「医師賠償責任保険」です。今回は、医師賠償責任保険について検討する方法や補償内容などを解説します。

日本医師会のA会員は医師賠償責任保険に加入できる

医師賠償責任保険を検討する際は、まず医師会に加入するかどうかを確認します。日本医師会のA会員に加入する医師は、医師賠償責任保険制度の被保険者になれるためです。

日医A会員向けの医師賠償責任保険は、日本医師会の年会費に保険料が含まれており、また個別加入手続きをする必要もありません。

日本医師会に新規加入する場合は、地区の医師会で手続きをします。すでに日本医師会の会員である場合、加入中の地区医師会が管轄するエリアで開業するのであれば、会員区分と医師賠償責任保険の変更手続きをします。

現在とは異なるエリアで開業する場合「加入している地区医師会の脱退手続き」と「新たに開業するエリアの地区医師会での加入手続き」が必要です。

日本医師会に加入しないのであれば、医師協同組合または一般の保険代理店で医師賠償責任保険に加入します。

日本医師会の医師賠償責任保険の補償内容

では、日本医師会の医師賠償責任保険はどのような補償内容なのでしょうか。対象となる事故や保険金額、免責事項、付加できる特約などを解説します。

日本医師会の医師賠償責任保険(A会員が対象)

日本医師会のA会員が加入できる医師賠償責任保険の内容は、以下の通りです。

 内容
保険の対象となる会員以下の日本医師会会員 ・A①:病院・診療所の開設者、管理者及びそれに準ずる会員 ・A②(B):上記A①会員及びA②会員(C)以外の会員 ・A②(C):医師法に基づく研修医
対象となる事故医療行為によって生じた身体の障害につき損害賠償を請求され、その請求額が100万円を超えるもの
年間総支払限度額1事故:1億円 保険期間中:3億円
免責金額1事故、同一診療行為につき100万円

※出典:日本医師会「日本医師会医師賠償責任保険制度」

A会員本人の診療事故によって損害額が100万円を超える場合、1件の事故につき最高1億円の保険金が支払われます。損害賠償金だけでなく訴訟費用や弁護士報酬も補償の対象です。

また、日本医師会の医師賠償責任保険には、紛争が起きたときに日本医師会と保険会社が事態の解決に向けたサポートをしてくれるというメリットもあります。

日医医賠責特約

日本医師会の医師賠償責任保険は、A会員本人が起こした医療事故による損害賠償が補償の対象です。

そのため、A会員ではないクリニックの勤務師が起こした医療事故で、A会員が開設者・管理者としての責任を問われ、損害賠償責任を負うようなケースは補償されません。

「日医医賠責特約保険」に加入すると、A会員以外の医師が起こした医療事故も補償の対象となるため、開設者・管理者としての賠償責任にも備えることができます。

また、日医医賠責特約保険に加入すると、保険金の支払限度額が1事故につき3億円、保険期間中9億円に増えるため、より高額な賠償責任にも備えられます。

地区医師会で加入できる保険

地区医師会によっては、日医医師賠償責任保険の免責である100万円や、医療施設に関わる賠償責任をカバーする補償に加入できます。

たとえば京都医師会では、診療所の開設者個人(日医A1会員)が医師賠償責任や医療施設賠償責任を負った場合に、以下の金額を上限として損害賠償請求額が補償されます。

 補償内容
医療賠償責任・対人1事故につき100万円 ・対人1年間につき300万円
医療施設賠償責任・対人1名につき1億円、1事故につき3億円 ・対物1事故につき5,000万円

※出典:京都府医師会「京都府医師会への加入〜医師賠償責任保険制度について〜」

※勤務医師(日医A2(B・C)会員)は、医療賠償責任のみの補償となります

医療施設賠償責任であれば「雨で床が濡れていて、患者さんが転倒してけがをした」「院内で漏水が発生し、階下が水濡れして復旧義務が生じた」などで負った損害賠償も補償の対象となります。

保険制度の有無や制度内容は地区医師会によって異なるため、医師賠償責任保険の加入を検討する際に、あわせて確認しておくと良いでしょう。

医師賠償責任保険の免責事項

医師賠償責任保険は、医師が日本国内において業務遂行に起因して他人に損害を与え、法律上の賠償責任を負担した場合の損害を補償します。

たとえば、以下のような賠償事故は医師賠償責任保険の補償対象外です。

  • 美容を唯一の目的とする医療行為によって生じた損害賠償責任
  • 名誉棄損や秘密漏洩にともなう損害賠償責任
  • 海外での医療行為によって生じた損害賠償責任 など

診療科が、美容形成外科や美容皮膚科などの場合は、美容分野に特化した賠償責任保険に加入する方法があります。

保険代理店などで加入できる医師賠償責任保険(開業医用)

一般の保険代理店で加入できる医師賠償責任保険も、基本的には医療施設内の事故によって生じた損害賠償責任が補償されます。

ただし、保険金額や補償範囲などは商品によって異なるため、よく確認したうえで加入することが重要です。

また、学会や医師協同組合などが提供する団体保険に加入する方法もあります。

クリニック経営における損害賠償リスクに備えておくためにも、医師会に加入しないのであれば、保険代理店で加入できる商品や、団体保険を検討することが大切です。

医師賠償責任保険の注意点

地区医師会によっては、医師賠償責任保険のタイプが自動で変更されないことがあります。その場合、クリニックを開業するときは会員区分だけでなく医師賠償責任保険を変更する手続きも必要です。

また、クリニックに勤務医がいる場合は、その勤務医が起こした医療事故も補償の対象になるかどうかをよく確認することが大切です。

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