外貨建て保険の損益分岐点とは?-計算方法や為替リスクを軽減する方法を解説-
外貨建て保険は、円建て保険よりも利率が高く、より効果的に資産を形成できる可能性がある商品です。
その一方で「為替リスク」があるため、為替相場の影響により損失が発生することもあります。そこで、加入をする際に理解しておきたいのが「損益分岐点」です。
今回は、外貨建て保険の損益分岐点の計算方法や確認方法、為替リスクに対処する方法を解説します。
外貨建て保険の基礎知識
外貨建て保険とは、払い込んだ保険料が外貨で運用される保険のことです。選択できる外貨には、米ドル、豪ドル、ユーロなどがあります。
日本よりも金利水準が高い国の通貨で運用することで、円建ての保険と比べてより高い運用成果が期待できます。
保険金や解約返戻金などは、外貨で受け取るのが一般的ですが、商品によっては円での受け取りも可能です。
また、外貨建て保険は為替相場(日本円と外貨を交換する際のレート)の影響を受けるという特徴があります。
日本円と運用先の外貨との交換レートが変動することで、円に換算したときの保険金や年金、解約返戻金が増減します。
外貨建て保険の種類
外貨建て保険には、以下のような種類があります。
● 外貨建て終身保険
● 外貨建て個人年金保険
● 外貨建て養老保険
それぞれの主な特徴をみていきましょう。
外貨建て終身保険
終身保険は、万が一の保障が一生涯にわたって続く保険です。
保険期間の途中で被保険者(保険の対象となる人)が亡くなったり、所定の高度障害状態になったりした場合に、死亡・高度障害保険金が支払われます。
また、途中で保険を解約した場合には、解約返戻金を受け取れるのが一般的です。
保険料を払い込んだ期間や払込方法によっては、保険料の払込総額を上回る解約返戻金を受け取ることも可能です。
外貨建て個人年金保険
個人年金保険は、保険料を支払うと一定の年齢に達したときに年金を受け取れる保険です。
年金の受取方法には、10年などの一定期間の受け取りが可能な「確定年金」と、一生涯にわたって受け取れる「終身年金」があります。
外貨建て養老保険
養老保険は、保険期間中に被保険者が亡くなったときは死亡保険金が、満期まで生存したときは満期保険金が支払われる保険です。死亡保険金と満期保険金は同額です。
また、途中で解約をしたときは、解約返戻金を受け取ることができます。
外貨建て保険の検討時に押さえておきたいポイント
外貨建て保険の損益分岐点を考えるうえでは、為替リスクや為替手数料などを押さえておく必要があります。
ここでは、為替リスクや為替手数料について詳しく解説していきます。
為替リスク
為替リスクとは、為替相場の影響を受けて、円に換算したときの保険金額や解約返戻金額、年金額が増減することです。
保険料を円で払い込む場合や、保険金・解約返戻金を円で受け取る場合、為替相場の変動によって、払込額や受取額が増減し、損失が生じることがあります。
たとえば、1ドル150円のときに15,000円を100ドルに両替したとしましょう。
1ドルが160円の円安になったタイミングで、100ドルを日本円に両替すると16,000円となり、1,000円の為替差益が得られます。
しかし、1ドル140円の円高になったときに100ドルを日本円に両替すると、14,000円となり1,000円の為替差損が生じます。
そのため外貨建て保険は、受取時の為替レートが契約時よりも円安になれば利益が生じ、円高になれば損失が生じる仕組みです。
契約時よりも大きく円高が進んでいる場合は、払い込んだ金額よりも受取額が少なくなり、元本割れが生じてしまいかねません。
外貨建て保険を契約するときは、為替リスクがあることを充分に理解することが重要となります。
為替手数料
外貨建て保険では、日本円と外貨を両替するときに為替手数料がかかります。
為替手数料の金額を把握するうえで理解しておきたいのが「TTM」です。TTMは、簡単にいえばある時点における円と外貨の交換レートの基準となる数値です。
基本的に保険会社は、特定の銀行が定めるTTMを指標として、外貨建て保険の外貨の交換レートを設定しています。この交換レートに為替手数料が含まれるため、別途支払いが必要なわけではありません。
たとえば、ある保険会社では、日本円を外貨に交換するときのレートを「TTM+25銭」、保険金や解約返戻金を受け取るときは「TTM−25銭」としています。
この保険会社の場合、為替手数料に相当するのは±25銭の部分です。往復では、計50銭の手数料がかかることになります。
為替手数料の金額は、保険会社や商品によって異なります。外貨建て保険の運用成果に影響する要因でもあるため、加入する前に為替手数料をよく確認しておくことが大切です。
外貨建て保険の損益分岐点の計算方法と確認する方法
続いて、外貨建て保険の損益分岐点を計算する方法と、加入前に確認する方法を解説します。
損益分岐点の計算方法
損益分岐点とは、払い込んだ保険料の総額と受け取った保険金・解約返戻金の額が等しくなる為替レートのことです。損益分岐点の一般的な計算式は、以下の通りです。
● 損益分岐点 = 保険料の払込総額(円) ÷ 保険金・解約返戻金の受取総額(ドル・ユーロなど)
ここで、モデルケースを用いて外貨建て保険の損益分岐点をシミュレーションで確認してみましょう。
一時払いの外貨建て終身保険に加入し、5年後に解約をして解約返戻金を受け取るケースで試算をします。
具体的な資産条件は下記の通りです。
● 契約時の為替レート(TTM):1ドル = 147円
● 保険料の払い込み時に円からドルに交換をする際の為替レート:147.25ドル
● 払込保険料総額(円):1,000万円
● ドルに換算したときの払込保険料総額:68,027ドル
● 5年後の解約返戻金:78,231ドル(返戻率115%)
以上の条件で損益分岐点を計算すると、結果は下記の通りとなります。
● 損益分岐点 = 1,000万円 ÷ 78,231ドル= 約127.83円
ドルを円に交換する際の為替レートが「TTM−0.25銭」である場合、上記の計算結果に25銭を加えた128.08ドルが損益分岐点となります。
つまり、解約返戻金の返戻率が115%であっても、受け取るときの為替レートが128.08ドルを下回っていれば、払込保険料の総額を下回って元本割れするということです。
加入を検討する際は損益分岐点の確認を
保険会社の多くは、外貨建て保険のパンフレットや設計書、チラシなどに損益分岐点を記載しています。
また、保険会社によってはインターネットで外貨建て保険のシミュレーションができ、試算結果で損益分岐点が確認できることもあります。
外貨建て保険を検討する際は、損益分岐点を確認しておくと良いでしょう。どの程度まで円高が進むと損失が発生するのかを確認することで、外貨建て保険に加入すべきか判断しやすくなります。
パンフレットや保険の設計書などに損益分岐点の記載がない場合は、保険会社や保険代理店の担当者に試算してもらうことをおすすめします。
外貨建て保険の為替リスクに対処する方法
外貨建て保険には為替リスクがつきものです。加入する際は、為替リスクに対処する方法を理解することが重要となります。
為替リスクに対処する主な方法は、以下の通りです。
● 保険料を分けて支払う
● 保険金や解約返戻金を外貨で受け取る
● 保険金を外貨で据え置く
対処方法を1つずつみていきましょう。
保険料を分けて支払う
外貨建て保険の保険料を一括で支払うと、為替リスクの影響を受けやすくなります。
そこで、保険料を一時払いするのではなく、毎月一定金額の日本円で払い込んでいくのも1つの方法です。「ドルコスト平均法」によるリスク軽減効果が期待できます。
ドルコスト平均法は、決まったタイミングで一定金額ずつ購入する方法です。
保険料を払い込んだときに円安である場合は少しのドルに交換され、円高のときは多くのドルに交換されることで、一時払いよりも為替リスクが軽減されやすくなります。
為替リスクをできるだけ抑えたい場合や、外貨保険に加入したあとの為替相場がどう動くのかまったく見当がつかない場合は、保険料を毎月支払うのも一つの方法です。
保険金や解約返戻金を外貨で受け取る
外貨建て保険の契約時に比べて円高が進んでおり、為替差損が発生する場合は、保険金や解約返戻金を外貨で受け取るのも一案です。
外貨で受け取り、円安になるまで待ってから日本円に交換することで、為替差損の発生を回避できます。円安になってから日本円に交換すると、為替差益を得ることも可能です。
また、日本円だけでなく外貨でも資産を保有すると、通貨が分散されてリスクが低減される効果も期待できます。
保険金や解約返戻金を受け取るときに円高となっている場合は、無理に日本円に交換せず、外貨のまま保有することも検討した方が良いでしょう。
ただし、外貨で受け取るためには外貨預金の口座が必要です。外貨預金口座を持っていない場合は、開設手続きが必要となります。
保険金を外貨で据え置く
保険会社や商品によっては、外貨建て保険が満期を迎えたあとも、外貨のまま保険金や年金を据え置くことが可能です。
外貨のまま据え置きができれば、外貨預金口座を準備しなくても、円安になるまで待ってから受け取ることで、為替差損の発生を防ぐことができます。
据え置きの可否や据え置いておける期間などは、保険会社や商品によって異なります。
外貨建て保険に加入する際は、保険金や年金の据え置きに対応しているかどうかも確認をすると良いでしょう。
このように、外貨建て保険には日本円から外貨への両替が必要であるため、為替相場の影響を受けて保険金や解約返戻金などが増減するリスクがあります。
また、通貨を両替する際は、保険会社が定める為替手数料もかかります。
パンフレットや保険の設計書、チラシなどで損益分岐点の為替レートを確認し、どのようなケースで損失が生じるのかを理解したうえで、外貨建て保険に加入することが大切です。