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労災保険とは?-給付対象となる災害や給付内容などを解説-

社会保障制度 2024-11-29

クリニックの経営者にとって、勤務医や看護師、スタッフなどの健康と安全を守ることは大切な役割です。しかし、どれほど注意していても、業務中や通勤中に勤める人がケガや病気を負う可能性をなくすことは難しいでしょう。

そのような万が一の事態に備えられるのが、公的保険制度の1種である「労災保険(労働者災害補償保険)」です。

今回は、労災保険の概要や給付の種類、申請方法、保険料の計算方法を解説します。

労災保険(労働者災害補償保険)とは

労災保険(労働者災害補償保険)は、労働者が業務中や通勤中に負傷したり病気になったりした際に給付を行う公的な保険制度です。

医療機関で治療を受けるとき、仕事ができなくなって休業したとき、障害が残ったとき、万が一亡くなったときなどに給付が受けられます。

原則として従業員を1人でも雇用している事業主は、労災保険への加入が義務付けられています。保険料は全額が事業主負担であり、労働者が支払う必要はありません。

医療機関を経営する先生方も例外ではなく、医師や看護師などを雇用しているのであれば、必ず労災保険に加入しなければなりません。勤務形態は問わず、パートやアルバイトの方も、労働者である以上は労災保険の対象です。

労災保険の保険給付となる災害

労災保険の給付対象となる災害は「業務災害」と「通勤災害」があります。

業務災害

業務災害とは、クリニックや診療所に勤めるスタッフが仕事を原因として負ったケガや病気のことです。ケガや病気が原因で障害が残った場合や、万が一亡くなった場合も該当します。

業務災害と認められるためには、業務とケガや病気のあいだに一定の因果関係が認められなければなりません。簡単にいえば「このような仕事をしていたから、ケガや病気を負った」と説明できる関係にある場合に業務災害と認められます。

因果関係が認められるのであれば、職務の遂行中だけでなく業務外に発症したケガや病気も業務災害となります。

クリニックや診療所で起こりうる業務災害の例は、下記の通りです。

  • 患者の治療中に感染症に罹患してしまった
  • 注射や採血中に針で自分を刺してしまった
  •   患者を持ち上げる際に急激な強い力が腰にかかり腰痛を発症した

業務とは関係ない行為が原因で発症したケガや病気は給付の対象外です。たとえ業務遂行中に発症したとしても業務との因果関係が認められない場合、労災保険は適用されません。

通勤災害

通勤災害とは、従業員が通勤途中に負ったケガや病気、障害などを指します。ここでいう通勤とは「住居と就業場所」「単身赴任先と帰省先の住居」「就業場所から他の就業場所」を合理的な経路や方法で移動することをいいます 。

医療機関で働く方に起こりえる通勤災害の例は、下記の通りです。

  • 車で通勤中に交通事故に遭って大ケガを負った
  • 通勤中に転倒して骨折してしまった 
  • 徒歩での通勤中に熱中症になってしまった

通勤途中に仕事とは関係のない用事で寄り道をするなどの理由で合理的な経路から外れると、その後に負ったケガや病気は原則として通勤災害とは認められません。

ただし、食料品や日用品の買い物など、日常生活に必要なことを最小限度の範囲で行う場合は例外です。合理的な経路から外れているあいだの災害は給付の対象になりませんが、元の経路に復帰したあとの災害は給付の対象となります。

労災保険の主な給付

労災保険の主な給付は、以下の通りです。

  • 療養(補償)等給付
  • 休業(補償)等給付
  • 障害(補償)等給付
  • 介護(補償)等給付
  • 遺族(補償)等給付、葬祭料等(葬祭給付)

1つずつ解説します。

療養(補償)等給付

療養(補償)等給付は、医師や看護師、スタッフなどが業務上や通勤途中のケガ・病気によって治療が必要になったときの給付です。

この給付の対象になると、労災病院や労災保険指定医療機関・薬局などで、治療や薬剤の支給などを無料で受けることができます。

労災病院や労災保険指定医療機関など以外の医療機関や薬局で治療や薬剤の支給などを受けた場合は、それにかかった費用が支給されます。

給付の対象となるのは、治療費、入院料、移送費など通常の療養に必要とされる費用です。

給付が受けられるのは、傷病が治ゆするまでです。治ゆとは、傷病の症状が安定し、医学上一般的な治療をしても、その効果が望めない状態を差します。

休業(補償)等給付 

休業(補償)等給付は、業務中または通勤中に負ったケガや病気を療養するために仕事を休まざるを得ず、賃金が受けられないときに受給できる給付です。働けなくなり賃金を得られなくなった日の4日目から支給が始まります。

給付額は、休業1日につき給付基礎日額(過去3か月の賃金を日割り計算した金額)の60%相当額です。さらに、休業特別支給金として20%相当額が上乗せされるため、合計で80%程度の収入が補償されることになります。 

基本的に、ケガや病気を療養するために働くことができず、賃金を受け取っていないあいだは、給付が続きます。一方、ケガや病気を治療中であっても、働いて賃金を受け取っているのであれば給付金は支給されません。

障害(補償)等給付

障害(補償)等給付は、業務中や通勤途中に負った病気やケガが治ったあと、身体に一定の障害が残ったときに受けられる給付です。一定の障害とは、失明や視力の著しい低下、神経系統の障害、聴力の喪失などです。

障害の程度に応じて1〜14級の障害等級が定められ、それに応じて給付金の金額や種類が決まります。もっとも重度の障害を示すのが1級であり。数字が大きくなるほど障害の程度は軽くなっていき、給付金額は少なくなっていきます。

介護(補償)等給付

介護(補償)等給付は、業務や通勤が原因で重度の障害を負ってしまい、常時または随時の介護が必要な状態になった場合に受けられる給付です。

常時介護は、簡単にいえばほぼ常に誰かが監視・看護していることが必要な状態です。一方の随時介護は、本人に呼ばれたら介護をする必要がある状態のことを指します。

支給額は、下記の通り親族や友人、知人の介護を受けているかどうかや、支払った介護費用の有無で決まります。

介護 支給額
受けていない介護費用として支払った金額(上限あり)
受けている介護費用を支払っていない:一律定額
介護費用を支払っている
 支出額が一定額を下回る:一律定額  
 支出額が一定額を上回る:介護費用として支払った金額(上限あり)

常時介護よりも随時介護のほうが、上限額や一律の支給額は高く設定されています。

遺族(補償)等給付

遺族(補償)等給付は、労働者が業務や通勤が原因で亡くなってしまった場合に、その遺族を経済的に支えるための給付です。亡くなった労働者が得ていた収入によって、生活を支えられていた配偶者や子ども、父母などに給付されます。

遺族(補償)等給付には、年金形式で支給される遺族補償等年金と遺族特別年金、一時金で支給される遺族特別支給金があります。

遺族補償等年金と遺族特別年金は、遺族の数が多くなるほど支給額が増えていく仕組みです。一方の遺族特別支給金は、遺族の数にかかわらず一律300万円です。

また、遺族や勤め先の会社などが葬儀を行ったときは、葬祭料等(葬祭給付)が支給されます。

労災保険の給付を受けるときの流れ

労災保険の給付を受けるときの大まかな流れは、以下の通りです。

 1.労働災害の発生を勤務先に報告する

 2.労災指定医療機関や最寄りの取り扱い病院などを受診する

 3.必要な申請書類を作成する

 4.申請書に必要事項を記入し、勤務先に証明を依頼する

 5.申請書と必要な添付書類を管轄の労働基準監督署に提出する
  ※労災指定医療機関を受診した場合は療養費(補償)給付の申請書を通院先の病院に提出

 6.労働基準監督署が調査を行い、支給・不支給を決定する

給付を受けるためには、労働基準監督署による労災認定を受ける必要があります。

実際の申請方法は、給付の種類によって異なります。詳しくは、厚生労働省のホームページに掲載されている各給付のパンフレットをご覧ください。

労災保険料の計算方法

労災保険料の基本的な計算式は「全従業員に支払った賃金総額×保険料率」です。賃金総額は、労働者に支払った給与や賞与などの合計額です。基本給、残業手当、通勤手当などが含まれます。

保険料率は業種によって異なります。令和6年度における医業の保険料率は1000分の3(0.3%)です。

たとえば、1年間で従業員に支払った賃金総額が2,000万円の場合、労災保険料は「2,000万円×0.3%=6万円」となります。この労災保険料をすべて事業者が負担します。

クリニックに勤務する医師や看護師、スタッフなどがいる場合、労災保険に対する理解が不可欠です。支給対象となる災害や給付の種類、申請方法などを把握することで、従業員の安全と安心を確保しながら、より安定的にクリニックを運営できるでしょう。


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