生命保険が相続対策に活用できる理由とは?
開業医に限らず相続対策を行う際によく用いられるのが「生命保険」です。
契約形態や死亡保険金に課税される税金の決まり方などを理解したうえで生命保険を活用することで、相続税の負担を軽減したり、特定の相続人に財産を残したりできます。
今回は、生命保険の契約形態と税金の関係、相続対策に活用できる理由、よく利用される商品を解説します。
生命保険で相続対策をする際に押さえたいこと
生命保険を活用して相続対策を行う際には、契約形態や税金との関係を理解しておくことが重要です。相続税が課税されるケースとあわせてみていきましょう。
生命保険の契約形態
生命保険を契約するときは「契約者」「被保険者」「保険金受取人」を決めます。それぞれがどのような人を指すのかは、下記をご確認ください。
- 契約者:保険会社と保険契約を結び保険料を支払う人
※契約者ではない人が保険料を支払うケースもあります
- 被保険者:保険の対象となる人
- 保険金受取人:保険金を受け取る人
生命保険の被保険者が亡くなったときや所定の高度障害状態になったとき、保険金受取人は保険会社に請求をすると死亡保険金又は高度障害保険金を受け取れます。
被保険者や保険金受取人を指定できるのは契約者のみです。
生命保険の死亡保険金と税金の関係
生命保険の死亡保険金に課税される税金は「相続税」「所得税・住民税」「贈与税」のいずれかです。課せられる税金の種類は、契約者(保険料負担者)、被保険者、保険金受取人の関係によって決まります。
- 相続税:契約者(保険料負担者)=被保険者の場合
- 所得税・住民税:契約者(保険料負担者)=保険金受取人の場合
- 贈与税:契約者、被保険者、受取人がすべて異なる場合
たとえば、生命保険の契約者が夫である場合、契約形態と課税される税金の種類を表にまとめると、以下の通りとなります。
契約者 | 被保険者 | 保険金受取人 | 課税される税金 |
夫 | 夫 | 妻 | 相続税 |
夫 | 妻 | 夫 | 所得税・住民税 |
夫 | 妻 | 子ども | 贈与税 |
夫が契約者(保険料負担者)と被保険者である場合、妻が受け取る死亡保険金は「みなし相続財産」として相続税の課税対象になります。
夫が契約者と保険金受取人、妻が被保険者の場合、死亡保険金を一括で受け取ると、一時所得として所得税と住民税の課税対象となります。
夫が契約者、妻が被保険者、子どもが受取人の場合、死亡保険金は贈与税の課税対象です。子どもが受け取った死亡保険金と、1年間で贈与された他の財産の合計額から基礎控除額110万円を差し引いた部分に、贈与税が課せられます。
相続税が課税されるのは基礎控除額を超える部分
相続税は、遺産のすべてに課税されるわけではありません。正味の遺産総額が「基礎控除額」を超える場合、超過した分に対して課税されます。
基礎控除額は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」です。法定相続人とは、民法で定められる相続権を持つ人のことを指します。亡くなった人(被相続人)の配偶者は常に法定相続人となり、それ以外の親族は以下の順序にしたがって決まります。
- 第1順位:亡くなった人の子ども
- 第2順位:亡くなった人の直系尊属(父母や祖父母)
- 第3順位:亡くなった人の兄弟姉妹
たとえば、亡くなった開業医の先生に配偶者と子どもが2人いる場合、法定相続人は配偶者と子ども2人の計3人となります。この場合の基礎控除額は「3,000万円+600万円×3人=4,800万円」です。
生命保険の死亡保険金が3,000万円、その他の相続財産が1億円であったとすると、正味の遺産総額は1億3,000万円となります。
相続税が課税されるのは「1億3,000万円−4,800万円=8,200万円」です。
生命保険が相続対策に活用できる理由
生命保険が相続対策に活用されることの多い理由は、以下の通りです。
- 相続税の非課税枠がある
- 保険金は受取人固有の財産
- 相続税の納税資金を準備できる
- 代償分割にも活用が可能
1つずつ解説します。
相続税の非課税枠がある
生命保険の死亡保険金が「みなし相続財産」として相続税の課税対象となる場合、保険金受取人が相続人であれば一定の金額までは非課税となります。非課税となる金額の上限(非課税限度額)は「500万円×法定相続人の数」です。
たとえば、法定相続人が3人の場合、非課税限度額は「500万円×3人=1,500万円」です。死亡保険金の受取額が5,000万円であれば、そのうち1,500万円までは非課税となり、3,500万円が相続税の課税対象となります。
被相続人が生前に自身を被保険者として生命保険に加入し、亡くなったあとに死亡保険金という形で相続人が受け取ると、非課税枠が適用されることで、相続税の負担を減らす効果が期待できます。
保険金は受取人固有の財産
亡くなった人が遺言書を残していた場合は、原則としてその記載内容にしたがって遺産が承継されます。遺言書がない場合は、相続人全員が遺産分割協議をして誰がどのように遺産を受け継ぐのかを決めることになります。
遺産分割協議の対象となるのは、預貯金や不動産、株式など被相続人が生前に所有していた財産です。一方、生命保険の死亡保険金は、受取人固有の財産であるため、遺産分割協議の対象になりません。
たとえば、自分を献身的に世話してくれた人を保険金受取人に指定した生命保険に加入することで、相続が発生したときはその人に確実に財産を渡すことができます。
確実に財産を渡したい人がいるときは、生命保険の活用を検討すると良いでしょう。
相続税の納税資金を準備できる
生命保険は、被保険者が亡くなったときに保険金をスムーズに受け取ることができるため、相続税の納税資金を確保したいときに役立ちます。
相続税の申告期限は、被相続人の死亡を知った日(通常は被相続人が死亡した日)の翌日から10か月以内です。この日までに相続税の申告と納税を済ませる必要があります。また、相続税は現金で納めるのが原則です。
相続税の納税資金が準備できずに苦労するケースは少なくありません。たとえば、相続財産の多くが不動産であるとすぐに現金化することが難しく、相続人自身の財産から相続税の支払いが必要になることがあります。
故人の預貯金口座を引き出そうにも、相続の開始時点で凍結されてしまうため、遺産分割協議が終わるまでは手が付けられません。
相続預金の払戻し制度を利用することで、遺産分割が終了する前に口座からお金を引き出せます。しかし、被相続人の出生から死亡まで連続した戸籍謄本も必要なため、すぐにお金が引き出せるわけではありません。
生命保険であれば、被保険者が亡くなった際、受取人が保険会社に請求すると、1週間ほどで保険金が指定の口座に振り込まれます。そのため、相続税の納税資金を準備する際に活用しやすいのです。
代償分割にも活用が可能
代償分割とは、土地や建物など分割が難しい財産があるときに選択されることがある分割方法です。特定の相続人が不動産などを引き継ぐ代わりに、他の相続人に代償金を支払って調整します。
たとえば、被相続人が父親、相続財産が1億円の不動産と2,000万円の現預金、法定相続人は子ども3人(長男・次男・三男)であるとしましょう。
1人あたりの法定相続分は1/3であるため、その通りに分割すると各相続人は4,000万円ずつ相続できます。しかし、相続財産のほとんどが不動産であるため、そのように分けるのは困難です。
長男が1億円の不動産を相続し、次男と三男は1,000万円ずつの現預金を相続すると、そのままでは不公平となります。兄弟が遺産の引き継ぎ方で揉めてしまい「争続」になってしまうかもしれません。
このようなときは、代償分割をすることでより公平に遺産分割がしやすくなります。長男が次男と三男に3,000万円ずつの代償金を支払うことで、実質的に1人4,000万円ずつの財産を取得したことになり、争いに発展しにくくなるでしょう。
しかし、代償分割をするためには、長男に6,000万円もの代償金を支払えるだけの資力が必要です。そこで活用できるのが生命保険です。
父親を契約者(保険料負担者)と被保険者とし、不動産を相続する予定の子どもを保険金受取人とすることで、死亡保険金を代償金の支払いに充てられます。
相続対策に活用されることの多い商品
相続対策のために生命保険を活用する際、よく利用されるのが「一時払終身保険」です。ここでは、一時払終身保険が相続対策に利用されることの多い理由を解説します。
一時払終身保険で相続対策をするケースが多い
一時払終身保険とは、契約をするときに保険料を一括で支払う終身保険です。
終身保険は、一生涯にわたって死亡と所定の高度障害状態の保障が続く生命保険を差します。解約をしない限り必ず保険金が支払われる仕組みであり、相続が発生する前に契約が終了することもないため、一時払終身保険は相続対策に活用されることが多いのです。
自身を契約者と被保険者にし、保険金受取人を相続人になる予定の家族にすることで、生命保険の非課税枠も利用できます。特定の家族に財産を残したいときや相続税の納税資金や代償金を準備したいときにも活用が可能です。
外貨建て終身保険や変額終身保険はあまり用いられない
相続対策には、保険料を日本円で支払う円建ての一時払終身保険が用いられるのが一般的です。保険料の払い込みや保険金の受取を外貨で行う「外貨建て終身保険」や、払い込んだ保険料の一部を株式や債券などで運用する「変額終身保険」はあまり用いられません。
外貨建て終身保険には、為替レート(ある国の通貨と別の国の通貨との交換比率)の変動によって、円換算した保険金が増減する「為替リスク」があります。
また、変額終身保険には投資対象である株式や債券などの運用成果によって、保険金が上下する「価格変動リスク」があります。
それぞれにリスクがあり、相続が発生したときに損失が生じる可能性があるため、相続対策をする際は円建ての一時払終身保険を用いるケースが多いのです。
生命保険で相続対策をするときは、生命保険会社や保険代理店の担当者と相談し、目的や保有する資産の状況、家族構成などに応じた商品を選ぶことが重要となります。