遺族年金の制度内容とは?-種類や受給額の計算方法などを解説-
遺族年金とは、家計を支えていた人が亡くなったときに、残された家族の生活を支えるための重要な制度です。
遺族年金を受け取るためには、一定の要件を満たす必要があります。配偶者や子どもなどを養っている方は、遺族年金の制度内容をよく理解しておくことが大切です。
本記事では、公的年金保険の基本的な仕組みや遺族年金の種類、受給額の計算方法などを詳しく解説します。
公的年金の基礎知識
遺族年金は、国民年金や厚生年金などの公的年金に加入する人が亡くなったとき、その人によって生活を支えられていた遺族に支給される年金です。
日本の公的年金制度は、国民年金と厚生年金の2階建て構造になっています。また、国民年金の被保険者は以下の3種類に分かれています。
- 第1号被保険者:自営業者、農林漁業従事者、学生など
- 第2号被保険者:会社員、公務員など
- 第3号被保険者:第2号被保険者に扶養されている20歳以上60歳未満の配偶者
第1号被保険者と第3号被保険者は国民年金のみに加入し、第2号被保険者は国民年金と厚生年金保険の両方に加入します。
国民年金に加入する人が亡くなったときは、所定の要件を満たすと遺族に「遺族基礎年金」が支払われます。厚生年金に加入する人が亡くなった場合は、残された家族は遺族基礎年金だけでなく「遺族厚生年金」を受け取ることも可能です。
公的年金の給付には、遺族年金の他にも高齢者の生活を支える「老齢年金」や、障害がある方を支援する「障害年金」があります。
遺族年金は、老齢年金や障害年金と並び、国民の最低限の生活を保障するための重要な制度なのです。
遺族基礎年金の給付内容と要件
遺族基礎年金と遺族厚生年金は、給付の対象となる遺族の範囲や支給額の決まり方が異なります。ここでは、遺族基礎年金の給付内容や要件を解説します。
遺族基礎年金の受給要件
遺族基礎年金が支給されるのは、次の1〜4のいずれかに該当するときです。
1.国民年金の被保険者である間に死亡したとき
2.国民年金の被保険者であった60歳以上65歳未満の方で、日本国内に住所を有していた方が死亡したとき
3.老齢基礎年金の受給権者であった方が死亡したとき
4.老齢基礎年金の受給資格を満たした方が死亡したとき
※出典:日本年金機構「遺族基礎年金(受給要件・対象者・年金額)」
上記のうち1と2は、亡くなった被保険者について以下2つを合わせた期間が、死亡日の前日時点で国民年金に加入していた期間の3分の2以上ある必要があります。
- 保険料を納めた期間
- 所定の申請をして保険料の支払いを免除されていた期間
つまり、国民年金の保険料を支払っていない期間が、国民年金に加入していた期間の3分の1を超えていると遺族基礎年金は支給されません。
遺族基礎年金を受給できる人
遺族基礎年金を受給できるのは、亡くなった方によって生計を維持されていた「子のある配偶者」または「子」です。
ここでいう子とは「18歳になった年度の3月31日に達していない方」または「20歳未満で障害年金の障害等級1級または2級の状態にある方」のことです。
生計を維持されているとは、以下のどちらも満たす場合のことを指します。
1.生計を同じくしていること
2.前年の収入が850万円未満、または所得が655万5,000円未満であること
生計を同じくしているとは、基本的に同居していることを指しますが、別居していても仕送りをしている場合や、健康保険の扶養親族である場合なども該当します。
遺族基礎年金の受給額
遺族基礎年金の受給額は、816,000円(2024年4月以降の満額)に子の加算額を上乗せした金額です。 子の加算額は、以下の通りです。
- 第1子・第2子:各234,800円
- 第3子以降:1人につき78,300円
たとえば、亡くなった人に配偶者と2人の子どもがいる場合、遺族基礎年金の年金額は以下の通りです。
- 816,000円 + 234,800円 × 2人 = 1,285,600円
遺族基礎年金の受給額は年間で約128.6万円、ひと月あたり約10.7万円です。
なお、子どものみが遺族基礎年金を受け取る場合、受給額は「816,000円+2人目以降の子の加算額」となります。
遺族厚生年金の給付内容と要件
続いて、遺族厚生年金を受給できる人や要件、受給額の計算方法をみていきましょう。
遺族厚生年金を受給できる人
遺族厚生年金は、厚生年金保険に加入している方が亡くなったとき、その方に生計を維持されていた配偶者、子、父母、孫、祖父母に支給される年金です。以下のうちもっとも優先順位が高い人に支給されます。
1.子のある配偶者
2.子
※18歳になった年度の3月31日までにある方、または20歳未満で障害年金の障害等級1級または2級の状態にある方
3.子のない配偶者
4.父母
5.孫
※18歳になった年度の3月31日までにある方、または20歳未満で障害年金の障害等級1級または2級の状態にある方
6.祖父母
※出典:日本年金機構「遺族厚生年金(受給要件・対象者・年金額)」
遺族基礎年金とは異なり、遺族厚生年金は亡くなった人に子どもがいなくても支給されることがあります。また、亡くなった人の配偶者だけでなく父母や孫、祖父母なども、要件を満たせば受給が可能です。
ただし、子どものいない30歳未満の妻が遺族厚生年金を受給できるのは5年間のみです。
子どものいない夫は、妻が亡くなった時点で55歳以上であれば遺族厚生年金を受給できますが、支給が始まるのは60歳からとなります。この点は、父母または祖父母が遺族厚生年金を受け取るときも同様の扱いです。
ただし、子どものいない夫については、遺族基礎年金も受給するのであれば55歳から60歳のあいだも遺族厚生年金を受給できます。
子どものいる妻、または子どもがいる55歳以上の夫が遺族厚生年金を受け取る場合、子どもは遺族厚生年金を受け取れません。
いずれの方が受給する場合でも「生計を同じくしている」「遺族の前年の収入が850万円未満または所得が655万5,000円未満」の両方にあてはまり、亡くなった人に生計を維持されている必要があります。
遺族厚生年金の受給要件
遺族厚生年金は、次の1〜5に該当するときに支給されます。
1.厚生年金保険の被保険者である間に死亡したとき
2.厚生年金の被保険者期間に初診日がある病気やけがが原因で初診日から5年以内に死亡したとき
3.1級・2級の障害厚生(共済)年金を受け取っている方が死亡したとき
4.老齢厚生年金の受給権者であった方が死亡したとき
5.老齢厚生年金の受給資格を満たした方が死亡したとき
※出典:日本年金機構「遺族厚生年金(受給要件・対象者・年金額)」
上記のうち1と2は、亡くなった被保険者について以下2つを合わせた期間が、死亡日の前日時点で国民年金に加入していた期間の3分の2以上ある必要があります。
- 保険料を納めた期間
- 所定の申請をして保険料の支払いを免除されていた期間
遺族厚生年金の受給額
遺族厚生年金の額は、亡くなった方の老齢厚生年金の報酬比例部分の4分の3です。報酬比例部分は、厚生年金に加入していた期間や過去の報酬などに応じて決まる部分です。
報酬比例部分の計算式は、以下の通りです。
厚生年金に加入していた期間 | 計算式 |
2003年(平成15年)4月以降 | 平均標準報酬額 × 5.481/1000 × 加入月数 |
2003年(平成15年)3月まで | 平均標準報酬月額 × 7.125/1000 × 加入月数 |
平均標準報酬額は、簡単にいえば2003年4月以降に受け取った給与・賞与の平均額です。平均標準報酬月額は、2003年3月までの給与や手当などの平均額を指します。賞与は計算に含まれません。
加入期間(厚生年金の被保険者期間)が300か月(25年)未満の場合、300ヵ月とみなして計算します。
たとえば、平均標準報酬額が60万円で加入期間が20年(すべて平成15年4月以降)であるとしましょう。この場合、加入期間が25年未満であるため、遺族厚生年金を計算する際は300月とします。年金額の計算結果は、以下の通りです。
- 60万円 × 300か月 ×5.481/1000 × 3/4 = 73万9,935円
よって、遺族厚生年金の年額は約74万円、月額に換算すると約6.2万円です。
所定の要件を満たすと「中高齢寡婦加算」が支給されることもある
厚生年金に加入する人の妻が遺族厚生年金を受け取る場合、所定の要件を満たすと「中高齢寡婦加算」が適用されます。
中高齢寡婦加算の対象になると、妻が40歳から60歳になるまでのあいだ、年額61万2000円が追加で支給されます。
中高齢寡婦加算の対象になるのは、次の1または2に該当し、かつ遺族厚生年金を受給している妻です。
1.夫が亡くなったとき、妻が40歳以上65歳未満で生計を同じくしている子がいない
2.子が「18歳になった年度の3月31日を迎えた」または「障害の状態にあり20歳に達した」ために、遺族基礎年金を受給できなくなったとき
上記にある子とは「18歳になった年度の3月31日に達していない方」または「20歳未満で障害年金の障害等級1級または2級の状態にある方」のことを指します。
生命保険で万が一の保障を充実させることも検討しよう
遺族年金は、公的年金制度に加入する人が亡くなったときに遺族の生活を支える重要な制度ですが、それを受給するだけでは十分とはいえないケースがあります。
とくに、現役で働いている方が亡くなると、遺族年金を受給できたとしても世帯収入が大きく下がり、残された家族の生活が苦しくなってしまうかもしれません。 そこで、万が一に備えて生命保険に加入しておくのも選択肢の1つです。
自身に万が一のことがあったとき、遺族年金と合わせて生命保険の死亡保険金を受け取れるようにすることで、残された家族が生活に苦しくなる事態を避けやすくなります。
一般的に死亡保障を手厚くすると保険料は高くなりますが、掛け捨て型の生命保険である「定期保険」や「収入保障保険」であれば、負担を抑えて充実した備えを準備することができます。
- 定期保険:被保険者が死亡した場合に保険金が一括で支払われる保険
- 収入保障保険:被保険者が亡くなったとき毎月定額の年金が支払われる保険
生命保険に加入する際は、遺族年金の受給見込額や残された家族の生活費などをもとに、過不足のない保障額を設定することが大切です。また、各生命保険会社が取り扱う商品の中から、自身の状況や希望に合ったものを選ぶことも重要となります。
そのため、万が一に備えて生命保険への加入を検討するときは、保険会社や保険代理店の担当者に相談することが大切です。