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公的医療保険とは?-給付内容や種類などを解説-

社会保障制度 2024-07-19

日本では「公的医療保険」の加入が義務付けられているため、誰もが安価で高度な医療を受けられます。

医療保険には他にも、保険会社が取り扱う「民間医療保険」があります。病気やけがのリスクに備えるために民間医療保険に加入すべきか適切に判断するためには、公的医療保険の制度内容をよく理解することが大切です。

今回は、公的医療保険の基礎知識や種類、主な給付を解説します。

公的医療保険制度の基礎知識

公的医療保険制度とは、病気やけがで医療機関を受診した際、医療費の一部を公的な機関が負担してくれる制度のことです。

病気やけがで病院や診療所で治療を受けたときに、健康保険証を支払窓口に提示すると支払う金額は実際にかかった医療費の最大3割となります。

自己負担の割合は、以下の通り年齢や所得によって決まります。

                     自己負担割合
 義務教育就学前
 ※(〜6歳)
 2割負担
 義務教育就学後〜69歳 3割負担
 70〜74歳 2割負担 (現役並みの所得者は3割負担)
 75歳以上 一般所得者等:1割負担
 一定以上の所得者:2割負担
 現役並み所得者:3割負担

※6歳に達する日以降の最初の3月31日まで

保険証の提出により、一部負担金を支払うことで、診察・処置・投薬などの治療を受けられることを「療養の給付」といいます。

公的医療保険には「国民皆保険」「フリーアクセス」「現物支給」という3つの特徴があります。

1つめの国民皆保険とは、すべての日本国民に公的医療保険への加入を義務付けることです。日本では国民皆保険制度が導入されていることで、職業や所得などにかかわらず、すべての人は高度な医療サービスを受けられるようになっています。

2つめのフリーアクセスとは、患者が自由に医療機関や医師を選択できることです。

諸外国では、最初は必ずあらかじめ登録した医療機関への受診が義務付けられていることもありますが、日本ではそうした制限はなく、受診する医療機関を自由に選べます。

3つめの現物給付とは、医療費の一部負担のみで医療を受けられることです。

患者は医療費の1〜3割のみを窓口で支払い、残りは公的な機関が負担することで、診察や手術、投薬などの医療行為を安価で受けることができます。

公的医療保険の種類

公的医療保険には「健康保険(被用者保険)」「国民健康保険」「後期高齢者医療制度」の3種類があります。

ここでは、公的医療保険の種類やそれぞれの特徴を解説します。

健康保険(被用者保険)

健康保険(被用者保険)は、主に会社員や公務員などの被用者とその扶養家族を対象とした公的医療保険制度です。健康保険には、以下の種類があります。

  • 組合健保(組合管掌健康保険):大企業の従業員などを対象とした医療保険
  • 協会けんぽ(全国健康保険協会管掌健康保険):健康保険組合がない従業員などを対象とした医療保険
  • 船員保険:船員を対象とした医療保険
  • 共済組合:公務員を対象とした医療保険

勤務医や法人を開設し理事長に就任した医師などは、健康保険に加入します。

健康保険の保険料は、被保険者の標準報酬月額(毎年4〜6月の平均月収)をもとに決まり、事業主(勤務先)と労働者で折半して支払います。

また、被保険者と同じ家計で生活をする配偶者や子ども、親などを扶養家族に含めることも可能です。扶養家族を加入させても、保険料は変わりません。

さらには、病気やけがで3日以上連続して仕事を休んだときに支給される「傷病手当金」や、出産をするために仕事を休んだときの「出産手当金」など、他の公的医療保険には給付制度があります。

国民健康保険

国民健康保険は、自営業者や年金生活者、学生、専業主婦(夫)、農林水産業に従事する人などが加入する保険です。

クリニックを開業し個人事業主となった医師は、原則として国民健康保険に加入します。

国民健康保険を運営しているのは、都道府県と市区町村です。また、同じ種類の事業・業務に従事する人を組合員として組織される「国民健康保険組合(国保組合)」という団体が管理・運営している場合もあります。

たとえば、医師会に所属する医師が加入できる「医師国保」は、国保組合の1種です。

国民健康保険は、加入者一人ひとりが被保険者であり、健康保険とは異なり扶養の概念はありません。

国民健康保険の保険料は、前年の所得や加入者数などをもとに世帯ごとに算出されます。

保険料の計算方法は自治体によって異なりますが、基本的には前年の所得や被保険者の人数に応じて支払う金額が決まります。

後期高齢者医療制度

後期高齢者医療制度は、75歳以上の方を対象とした公的医療保険制度です。一定の障害がある65歳以上の方も、希望をすれば加入できます。

後期高齢者医療制度が開始されたのは、2008年(平成20年)4月です。それまでの老人保健制度に代わり、高齢者の医療費負担を軽減することを目的に施行されました。

医療機関を受診した際の窓口負担は1割ですが、一定以上の収入がある方は2割、現役並みの収入がある世帯は3割となります。それぞれの判定基準は、以下の通りです。

                      判定基準
 現役並み所得:
 3割負担
 課税所得145万円以上
 ※単身世帯の場合は年収約383万円以上、複数人世帯の場合は約520万円以上
 一定以上所得:
 2割負担
 課税所得28万円以上
 ※年金収入+その他の合計所得金額が単身世帯で約200万円以上、複数人世帯 
  で320万円以上
 一般:1割負担 課税所得28万円未満
 ※住民税が課税されている世帯で一定以上の所得以外

年金の受給額が年間18万円以上であれば、保険料は年金から天引きされます。保険料の金額は、都道府県ごとに設置された後期高齢者医療広域連合が決定します。

公的医療保険の主な給付

公的医療保険には療養の給付の他にも、さまざまな給付制度があります。ここでは、公的医療保険に加入している人が受けられる代表的な給付をご紹介します。

高額療養費制度

高額療養費制度は、医療費の自己負担額が一定額を超えた場合、超過分が払い戻される制度です。自己負担の上限額は、年齢や所得によって異なります。

69歳以上の方の自己負担上限は、以下の通りです。

〇69歳以下の方の毎月の上限額

 適用区分      年収     自己負担上限額(月ごと)
  年収約1,160万円~ 252,600円+(医療費-842,000)×1%
  年収約770~約1,160万円 167,400円+(医療費-558,000)×1%
  年収約370~約770万円 80,100円+(医療費-267,000)×1%
  ~年収約370万円 57,600円
  住民税非課税者 35,400円

※上記の年収はあくまで目安であり、実際の自己負担上限額は健康保険の場合は標準報酬月額、国民健康保険の場合は旧ただし書き所得に応じて決まります

たとえば、50歳の年収500万円である人が病気で入院と手術をし、1か月で100万円の医療費がかかったとしましょう。

この場合、窓口で負担する金額は100万円の3割である30万円です。高額療養費制度を適用すると、自己負担の上限額と払い戻される金額は以下の通りとなります。

  • 自己負担の上限額:80,100円 + (100万円 - 267,000円) × 1% = 87,430円
  • 高額療養費から払い戻される金額:30万円 - 87,430円 = 212,570円

よって、ひと月に100万円の医療費がかかったとしても、高額療養費制度を利用することで、自己負担上限額は87,430円となり、21万2,570円が後日払い戻されます。

また、過去12か月以内に同じ世帯で3回以上、上限額に達すると、4回目からは「多数回該当」となり自己負担上限額が下がります。

たとえば、年収約370万〜約770万円である69歳以下の人が多数回該当となった場合、4回目からの自己負担上限額は4万4,400円となります。

出産育児一時金

出産育児一時金は、加入者またはその被扶養者が出産した際に支給される一時金です。

支給額は、原則として1児につき50万円です。2023年(令和5年)3月31日までの支給額は、原則として1児につき42万円※でしたが、2023年(令和5年)4月1日から増額されました。

※産科医療補償制度に加入の医療機関等で妊娠週数22週以降に出産した場合の支給額

1児ごとに支給されるため、双子や三つ子などの多胎児を出産する場合は、人数分の金額が支給されます。

ただし、以下のどちらかに該当する場合、支給額は1児につき48.8万円となります。

  • 産科医療補償制度に未加入の医療機関等で出産した場合
  • 産科医療補償制度に加入の医療機関等で妊娠週数22週未満で出産した場合

※参考:全国健康保険協会「子どもが産まれたとき

傷病手当金

傷病手当金は、健康保険(被用者保険)の加入者が病気やけがで働けなくなり、十分な報酬が得られなくなった場合に支給される手当金です。

支給額は、直近12か月の標準報酬月額(健康保険料や厚生年金保険料などを決める際の基準となる報酬額)の平均の30分の1に相当する金額の3分の2です。

たとえば、直近12か月の標準報酬月額の平均が36万円である場合、1日あたりの支給額は「36万円÷30×2/3=8,000円」となります。

支給期間は、傷病手当金の支給が始まった日(支給開始日)から通算して1年6か月です。以前は、支給開始日から最長1年6か月でしたが、2020年(令和2年)7月2日以降に支給が開始されるものについては、通算で1年6か月となります。

傷病手当金を支給してもらうためには、以下の条件を満たす必要があります。

  • 業務外の事由による病気やけがで療養していること
  • 療養のために労務ができないこと
  • 4日以上して休業していること
  • 給与の支払いがないこと 

※参考:全国健康保険協会(協会けんぽ)「傷病手当金について

なお、傷病手当金を受給できるのは、健康保険(被用者保険)の被保険者本人のみです。

被保険者の扶養家族は、傷病手当金を受給できません。

国民健康保険や後期高齢者医療制度にも傷病手当金の制度自体はありますが、実際に支給対象となるのは、新型コロナウイルス感染症により働くことができず給与を受けられない場合など、一部のケースに限られます。

民間医療保険の役割

公的医療保険制度は、医療費の負担を軽減できる重要な制度です。

しかし、希望して個室を利用する場合の差額ベッド代や、先進医療に該当する治療や手術を受けるときの技術料などは対象外であり、全額自己負担となります。

そこで加入を検討したいのが「民間医療保険」です。民間医療保険は、公的医療保険ではカバーしきれない部分を補うための任意加入の商品です。

民間医療保険の保障内容は保険会社や商品によって異なりますが、多くの場合、入院や手術をしたときに給付金が支払われます。

また特約を付けると、がんや三大疾病(がん・心筋梗塞・脳卒中※)、先進医療などにも備えることも可能です。※三大疾病の定義は保険会社によって異なります。

公的医療保険と民間医療保険を組み合わせることで、病気やけがに対する備えをより万全なものにできます。

ただし、民間医療保険に加入するためには保険料を支払う必要があるため、保有資産や家族構成などをもとに必要性をよく検討することが大切です。


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