民間医療保険とは?-保障内容や検討時に確認すべきポイントを解説-
民間医療保険は、病気やけがの治療に備えられる保険商品です。保険業法上の第三分野にあたる保険であり、生命保険会社と損害保険会社のどちらも取り扱うことができます。
また、公的医療保険は加入が義務づけられていますが、民間医療保険は任意加入であり、個人が好きな保険会社を選んで契約することが可能です。
今回は、民間医療保険の主契約と特約、保険期間などを解説します。
民間医療保険は公的医療保険をカバーする商品
日本は国民皆保険制度が導入されており、全国民が公的医療保険に加入することが義務付けられています。
そのため、病気やけがで医療機関の治療を受けたときは、支払窓口で健康保険証を提示することで、医療費の自己負担が1〜3割となります。
また、ひと月あたりの医療費が高額になったとき、一定の自己負担上限額を超えた部分が払い戻される「高額療養費制度」など、医療費の負担を軽減するさまざまな制度があります。
しかし、その一方で公的医療保険の給付を受けても自己負担が0円になることはありません。また、希望して個室や少人数部屋に入る場合の差額ベッド代など、公的医療保険の給付対象とならず全額自己負担となるものもあります。
民間医療保険は、こうした公的医療保険のみではカバーしきれない費用を補完するための商品です。
民間医療保険に加入して保険料を支払うと、保険会社が定める支払条件に該当したときに給付金・保険金が支払われます。
民間医療保険の主契約
民間医療保険の保障は、他の生命保険と同様に主契約と特約から成り立っています。
主契約とは、基本的な保障部分のことです。多くの民間医療保険は「入院給付金」と「手術給付金」を主契約としています。
- 入院給付金:病気やけがを治療する目的で入院した際に支払われる給付金
- 手術給付金:病気やけがを治療するための手術を受けた際に支払われる給付金
入院給付金の給付額は、多くの場合「入院給付金日額×入院日数」で決まります。
入院給付金日額の選択肢は保険会社や商品によって異なりますが、5,000円や1万円などから選択できるのが一般的です。
入院日数には、上限が設けられているのが一般的です。多くの商品では、1回の入院あたり入院日数を60日、120日、180日などから選べます。
近年は、入院日数が短期化していることもあり、支払限度日数を30日にできる商品も増えてきました。
また、ひと昔前は入院開始から4日程度は給付金の支払対象外となる免責期間がありましたが、昨今の商品にはなく、1泊2日の入院や日帰り入院でも保障されるのが一般的です。
手術給付金については、主に以下の2種類があります。
- 入院給付金日額に手術の種類ごとに定められた倍率(10倍~40倍)をかけて算出するタイプ
- 手術の種類にかかわらず一律の定額(10万円など)が給付されるタイプ
民間医療保険の特約
特約は、保障内容をさらに充実させるために付加できるものです。特約の種類は保険会社によって異なりますが、代表的なものとしては以下のようなものがあります。
- 先進医療特約:先進医療を受けた際の技術料を保障する特約
- がん特約:所定のがんと診断されたときに一時金が支払われる特約
- 三大疾病特約:がん、急性心筋梗塞、脳卒中になったときに一時金が支払われる特約※三大疾病の定義は保険会社によって異なる場合があります
- 女性疾病特約:乳がんや子宮筋腫など女性特有の病気の保障を手厚くする特約
- 入院時諸費用特約:差額ベッド代や付添い費用など、入院時の実費を保障
上記にある先進医療とは、厚生労働大臣が認めた高度な医療技術を用いた療養のうち、公的医療保険の対象とすべきかどうか検討中の療養のことです。
先進医療を受けたときの技術料は、公的医療保険の給付対象外であり、全額自己負担となります。
民間医療保険に先進医療特約を付けていると、先進医療を受けたときに上限金額の範囲内で実際にかかった技術料と同額の保険金が支払われます。
上限金額は、通算で1,000万円や2,000万円と定められるのが一般的です。
民間医療保険には、先進医療特約や三大疾病特約などさまざまな特約が用意されており、加入者の希望に合わせて保障内容を柔軟にカスタマイズすることが可能です。
ただし、保障内容が手厚くなるほど保険料は高くなるため、自分自身にとって必要な保障を選ぶことが重要となります。
保険期間(保障を受けられる期間)
民間医療保険の保険期間には、「終身タイプ」と「定期タイプ」の2種類があります。
終身タイプは、一生涯にわたって保障が継続します。
保障内容を変更しないかぎり、途中で保険料が上昇することはないため、若いときに加入していれば老後も低廉な保険料で病気やけがのリスクに備えることが可能です。
一方、定期タイプは保険期間が「10年間」や「65歳まで」などと定められているものです。商品によっては、保険期間の満了時に更新をすることで、引き続き保障を得られます。
定期タイプの場合、加入した当初の保険料は終身タイプよりも割安となるのが一般的ですが、更新をするたびに保険料は上昇していきます。
保険料の払込期間
民間医療保険の保険料の払込方法は「終身払い」と「有期払い」の2種類があります。
終身払いは、生涯にわたり保険料を支払い続ける方法です。保険料を一生涯払い続けなければなりませんが、保障内容が同様の場合、1回あたりの払込額は有期払いよりも割安です。
有期払いは、60歳払込満了や65歳払込満了のように、一定年齢まで保険料を払い込む方式です。
有期払いであれば、払込期間が終了したあとは、保険料を負担することなく保障を得られます。保険期間は終身でも、保険料は有期払いを選択するケースもあります。
民間医療保険の種類
民間医療保険には、掛け捨て型や貯蓄型、がん保険などさまざまな種類があります。
ここでは、代表的な民間医療保険の種類とその特徴について解説します。
掛け捨て型医療保険
掛け捨て型は、途中で解約をしたときの解約返戻金や、一定の条件を満たしたときに受け取れる還付金などがない医療保険です。
掛け捨て型の主なメリットは、貯蓄型よりも保険料が割安であることです。解約返戻金や還付金などがまったくないか、あってもごくわずかですが、毎月の保険料負担を抑えながら、病気やけがに手厚く備えることも可能です。
また、商品の選択肢が豊富である点も掛け捨て型の特長です。
2024年7月現在、生命保険会社や損害保険会社が取り扱う医療保険は、掛け捨て型が主力であり、毎年のように新商品が発売されています。
貯蓄型医療保険
貯蓄型の医療保険は、病気やけがの保障に加えて貯蓄機能がある商品です。
一定の年齢に達すると払い込んだ保険料が戻ってくるタイプや、加入から一定の期間が経過するとお祝い金を受け取れるタイプなどがあります。
貯蓄型は、掛け捨て型と比べると保険料は割高ですが、病気やけがをしなかった場合でも、お金を受け取ることができます。
がん保険
がん保険は、がんになったときに保障される保険です。
通常の民間医療保険は、がんも含む病気に幅広く備えられますが、がん保険はがんのみが保障対象です。その代わりに、がんに手厚く備えることができます。
がん保険の主な保障は、以下の通りです。
- がん診断一時金:がんと診断されたときに一時金が支払われる保障
- がん治療給付金:抗がん剤治療や放射線治療など所定のがん治療を受けたときに給付金が支払われる保障
- がん入院給付金:がんを治療するために入院をしたときの保障
- がん手術給付金:がんを治療するための手術を受けたときの保障
保障の対象となるがんとは基本的に悪性新生物を指しますが、近年は上皮内新生物も保障される商品が増えてきました。
がんは「不治の病」といわれることもありましたが、昨今では医療技術の進歩もあり、必ずしも死に至る病ではなくなってきています。
とはいえ、がんの治療は長期におよぶケースもあり、高額な治療費がかかる可能性もあります。また、治療期間中は就業が制限されることで収入が低下するかもしれません。
がん保険に加入していれば、がんの治療にかかる費用や収入の低下などに手厚く備えることができます。
女性向け医療保険
女性向け医療保険は、女性特有の疾病に対する備えに特化した医療保険です。
多くの女性向け医療保険は、子宮筋腫や乳がん、子宮がん、異常分娩、子宮外妊娠など、女性特有の病気で入院をすると、入院給付金が上乗せされます。
女性特有の病気を治療する場合、プライバシーを守りたいという思いから、個室や少人数部屋を希望する方は少なくありません。
女性向け医療保険に加入していれば、個室や少人数部屋に入るときの差額ベッド代を給付金でまかないやすくなり、より安心して治療をすることができます。
引受基準緩和型(限定告知型)医療保険
引受基準緩和型医療保険は、健康状態に不安のある方でも申し込みやすいよう、引受基準を緩和した医療保険です。
通常の医療保険と比較して告知項目が少なく、持病や入院歴、手術歴がある方でも加入しやすいという特徴があります。
引受基準緩和型医療保険であれば、通常の医療保険の加入が難しい方でも、病気やけがのリスクに備えられる可能性があります。
ただし、通常よりも保険料が割増しされているだけでなく、加入から一定期間は給付金の支払いが削減されることも多い点には注意が必要です。
医師が民間医療保険の必要性を検討するときのポイント
「民間の医療保険に加入した方が良いのだろうか」と悩む医師は少なくありません。
民間医療保険の必要性を検討する際は「自身が保有する資産で病気やけがのリスクに対処できるかどうか」が1つの判断基準となります。
生命保険文化センターの「生活保障に関する調査」では、アンケートに回答した人が直近の入院で支払った入院費用と得られなくなった収入(逸失収入)の総額が調査されています。
調査結果によると、直近の入院時の入院費用と逸失収入の総額は平均26.8万円でした。また、総額が100万円以上と回答した人の割合は5.1%となっています。
※参考:生命保険文化センター「2022(令和4)年度 生活保障に関する調査(2023年3月発行)」
平均額は26.8万円ほどですが、全体の5%程度は100万円以上の支出が発生しています。そのため、病気やけがの治療で数百万円の支出が発生したとき、自己資金で対処できるかどうかが、民間医療保険の必要性を判断する1つのポイントといえます。
一般的に医師は高収入であり、保有する資産も多額な傾向にあります。民間の医療保険に加入せずとも、自己資産で病気やけがのリスクに対処できるのであれば、必要性は低いのかもしれません。
ただし、保有資産だけでなく家族構成や年齢、病気に対する不安の度合いなどでも民間医療保険の必要性は異なります。
また、病気やけがで治療が必要になり、仕事も休まざるをえなくなったときに、資産が減っていくのを防ぎたいのであれば、民間医療保険に加入するのも1つの方法です。
自分自身の状況や希望をもとに、民間医療保険に加入すべきかどうかをよく検討することが大切です。