生前給付がある生命保険とは?-商品の内容やメリットを解説-
「病気やけがで働けなくなった」などの理由で収入が得られなくなる事態に備えるために、生前給付のある生命保険に加入する開業医は少なくありません。
生前給付がある生命保険には「三大疾病保険」「就業不能保険」「民間介護保険」があります。今回は、これらの保険の保障内容やメリット・注意点を解説します。
生前給付がある生命保険で開業医の収入を守る
開業医の場合、病気やけがで働けなくなると、クリニックを休診にせざるを得なくなり、診療報酬が得られなくなるリスクがあります。
また、大病を患って長期の治療・療養が必要になり、診療ができなくなるケースも想定されます。
たとえば、がん(悪性新生物)に罹患し、通院による抗がん剤治療や放射線治療が長引くと、治療期間が数年になることも珍しくありません。
開業医の場合、休診によって収入が途絶えても、診療所の家賃や医療機器のリース代、従業員の給与など固定費の支払いは続きます。
収入が途絶えると、返済や支払いが難しくなるだけでなく、医師個人や家族の生活も苦しくなってしまうかもしれません。
生前給付のある生命保険は、このように働けなくなったときの運転資金や生活資金などを確保できる重要な備えとなります。
開業医が検討したい生前給付がある3つの保険
生前給付がある保険のなかでも、とくに代表的なのが「三大疾病保険」「就業不能保険」「民間介護保険」です。それぞれの基本的な保障内容は、以下の通りです。
- 三大疾病保険:がん、急性心筋梗塞、脳卒中で所定の状態になった場合に一時金を受け取れる保険
- 就業不能保険:病気やけがで働けなくなったときに給付金が支払われる保険
- 民間介護保険:所定の介護が必要な状態になったときに一時金や年金形式の給付金を受け取れる保険
クリニックを安定的に経営していきながら、医師自身や家族の生活を守るためには、各保険の特徴をよく理解したうえで、状況にあったものを選ぶことが大切です。
三大疾病保険の保障内容
三大疾病保険は、以下の「三大疾病」と呼ばれる病気に備えられる保険です。
- がん(悪性新生物)
- 急性心筋梗塞
- 脳卒中
三大疾病保険に加入すると、上記の病気によって保険会社の定める状態になったとき、200万円や300万円といった契約当初に決めた一時金が支払われます。
三大疾病保険の保障対象となるがんは、基本的には「生まれて初めて罹患した悪性新生物」です。
また、悪性新生物と医師から診断確定された段階で保険金が支払われるのが一般的です。
一方、急性心筋梗塞や脳卒中は、診断に加えて一定の状態となったときに、保険金が支払われます。
たとえば、急性心筋梗塞の場合「初めて診断を受けた日を含めて60日以上の労働制限を必要とする状態が続いたとき」「手術を受けたとき」などの要件を満たす必要があります。
商品によっては、三大疾病に該当せず、亡くなったときや所定の高度障害状態に該当したときに保険金が支払われるものもあります。
三大疾病保険の主なメリット
三大疾病保険の主なメリットは、日本人の主な死因である重度な疾病に手厚く備えられる点です。
がん保険の場合、保障対象はがんに限定されますが、三大疾病保険であれば急性心筋梗塞や脳卒中にも備えることができます。
所定の状態になったときまとまった金額の保険金を受け取れるため、治療費や当面の生活費、クリニックの経営コストなどをカバーできます。
また、途中で解約をすると、経過期間に応じた解約返戻金が支払われる商品もあるため、重大な疾病に備えながら将来に向けた資産形成をすることも可能です。
たとえば、三大疾病保険の解約返戻金を原資として、院長の勇退退職金を支払うケースもあります。
さらには、死亡保険金や高度障害保険金もある商品であれば、1つの契約で三大疾病、死亡、所定の高度障害状態に幅広く備えられます。
三大疾病保険の主な注意点
三大疾病保険は、がん保険に比べると保障範囲が広くなる分、保険料は割高となります。
また、がんの保障については「免責期間」が設けられており、保険契約の開始から90日または3か月のあいだ、がんと診断確定されても保険金は支払われません。
急性心筋梗塞や脳卒中については、診断されるだけでなく、保険会社が定める状態にならないと保険金が下りない点にも注意が必要です。
三大疾病保険を検討する際は、保険金が支払われる要件をよく確認することが大切です。
就業不能保険の保障内容
就業不能保険は、病気やけがによって働けなくなり、収入が減ってしまうリスクに備えられる保険です。
病気やけがで長期にわたり入院しているときだけでなく、医師の指示により在宅で療養をしているときも、給付金が支払われるのが一般的です。
また、国民年金の障害等級1級・2級や、公的介護保険の要介護2以上に該当したときに給付金が支払われる商品もあります。
就業不能保険に加入すると、所定の就業不能状態になり、60日間や180日間といった免責期間を超えたあとに給付金の支払いが始まります。
就業不能な状態が続く限り、保険期間が満了するまで給付金を受け取ることが可能です。
保険期間は、65歳までや70歳までなど年齢で決めるタイプと、10年や20年など年数で決めるタイプがあります。
就業不能保険の主なメリット
就業不能保険の主なメリットは、病気やけがによる就業不能を幅広くカバーできる点です。
通常の民間医療保険も病気やけがに幅広く備えられますが、多くの商品では入院または手術をしないと給付金が受け取れません。
その点、就業不能保険であれば、入院や手術をしなくても医師の指示による在宅療養をしているあいだ給付金を受け取ることが可能です。
就業不能時に受け取った給付金は、医師やその家族の生活費はもちろん、事業の固定費の支払いなどにも充てられます。
また、就業不能保険であれば、所定の働けない状態が続く限り、保険期間の満了まで給付金を受け取れるため、長期にわたる収入の減少をカバーできます。
就業不能保険の主な注意点
就業不能保険の多くは、うつ病や統合失調症などの精神疾患で就業不能状態になったとしても、給付金は支払われません。
精神疾患による就業不能状態を保障する商品もありますが、給付金を受け取れる期間が最長2年に限定されるなど、保障が制限されるのが一般的です。
また、所定の就業不能状態に該当しても、免責期間のあいだは給付金が支払われません。
免責期間は60日や180日ほどであり、期間が短ければ短いほど保険料は割高となります。
民間介護保険の保障内容
民間介護保険は「公的介護保険」を補完する保険商品です。
日本では40歳以上の人に公的介護保険の加入が義務付けられています。公的介護保険の被保険者が、認知症などで所定の介護が必要な状態になると、訪問介護へ訪問入浴などの介護サービスを受けることが可能です。
公的介護保険の介護サービスを利用するときは、一定の自己負担がかかります。民間介護保険に加入すると、所定の介護が必要な状態になったときに給付金を受け取れるため、公的介護保険の自己負担分をカバーすることが可能です。
給付金の種類には「介護一時金」と「介護年金」があります。
介護一時金は、要件を満たしたときにまとまった給付金が支払われるという保障です。自宅のバリアフリー工事や介護用ベッドの購入費用などをカバーできます。
介護年金は、一定期間または終身にわたって給付金が受け取れるという保障です。公的介護保険の自己負担額の支払いや介護による収入減少に備えられます。
民間介護保険の主なメリット
民間介護保険の主なメリットは、公的介護保険の介護サービスを利用したときの金銭的な負担を軽減できる点です。
公的介護保険の介護サービスを利用する場合、原則1割(所得によっては2割または3割)の自己負担が発生します。
また、介護が必要な度合いに応じた支給限度額を超える介護サービスを利用する場合、超過した部分はすべて自己負担しなければなりません。
民間介護保険に加入していると、介護が必要な状態になったときに給付金を受け取れるため、介護サービスを受けるときの金銭的な負担が軽減されます。
家事代行サービスや配食サービスの費用など、公的介護保険の給付対象外であるサービスも利用しやすくなるでしょう。
また、介護が必要な状態になってクリニックを経営できなくなったときの収入減少もカバーすることができます。
民間介護保険の主な注意点
民間介護保険の給付金を受けるためには、所定の要介護度に該当するなどの支払要件を満たす必要があります。
民間介護保険の給付要件には主に2つのタイプがあります。
一つは、公的介護保険の要介護認定と連動するタイプです。このタイプでは、要介護2以上や要介護3以上など、保険会社が定める要介護認定を受けた場合に給付金が支払われます。
もう一つは、公的介護保険の要介護認定または保険会社独自の基準を設けているタイプです。この場合、公的介護保険の認定を受けていなくても、所定の介護状態になれば給付金を受け取ることができます。
保険会社によって給付金の支払い要件は異なるため、検討をする際によく確認することが大切です。
このように、生前給付がある生命保険には、三大疾病保険、就業不能保険、民間介護保険といった選択肢があり、それぞれ保障内容やメリットが異なります。
商品ごとの特徴をよく理解し、備えたいリスクを明確にしたうえで、加入する保険や保障内容を決めることが大切です。