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医師賠償責任保険に付帯できる特約・オプションの種類と補償内容

保険商品開業時のリスクマネジメント 2024-11-29

医師会に入会又は入会予定のクリニックや診療所などの医師が加入できる「医師賠償責任保険」には、日本医師会や地区の医師会が運営するものがあります。

このうち地区医師会の医師賠償責任保険には、特約・オプションを付けて補償を手厚くすることが可能です。

今回は、地区医師会の医師賠償責任保険に付帯できる主な特約・オプションの種類や補償内容を解説します。

医師賠償責任保険の基礎知識

医師が加入できる医師賠償責任保険には「日本医師会の医師賠償責任保険」「日医医賠責特約保険」「地区医師会の医師賠償責任保険」の主に 3種類があります。

日本医師会の医師賠償責任保険は、A会員が加入できる保険です。医療行為によって患者に身体の障害を与えてしまい、損害賠償を請求され請求額が100万円を超えるときに補償が受けられます。支払限度額は、1事故につき1億円、保険期間中は3億円です。

日医医賠責特約保険は、日本医師会の医師賠償責任保険の補償をより充実させる保険です。

A会員以外の医師が起こした医療事故で、開設者・管理者として賠償責任を問われたときなども補償される他、支払限度額も1事故3億円、保険期間中9億円に引き上げられます。

地区医師会の医師賠償責任保険は、日本医師会の医賠責の免責金額100万円や医療施設に関わる賠償責任などをカバーする補償に加入できます。加入できるのは、主に医院、診療所、病院、介護老人保健施設などの開設者の方やそこに勤める医師などです。

医師賠償責任保険について詳しくは、下記の記事で解説していますので、あわせてご覧ください。

内部リンク:https://rm.nkgr.co.jp/column/archive/374/

地区医師会の医師賠償責任保険に付帯できる特約・オプション

地区医師会の医師賠償責任保険には、さまざまな特約・オプションを付帯して補償を手厚くできます。代表的な特約・オプションは、以下の通りです。

  • 勤務医師包括担保追加条項
  • 看護職賠償責任保険
  • 医療事業従事者賠償責任保険
  • 傷害見舞費用担保追加条項
  • 医療機関受託者賠償責任保険

上記の5つの補償内容を解説します。

勤務医師包括担保追加条項

勤務医師包括担保追加条項は、補償対象の医療施設に勤務する医師が医療事故を起こしたこと個人が負った賠償責任をカバーするオプションです。

通常、医師賠償責任保険では、勤務医が個人的に負った損害賠償は補償の対象外です。日医医賠責特約保険の場合、A会員ではない勤務医が起こした医療事故も補償対象ですが、A会員が開設者・管理者として賠償責任を問われることが条件となります。

この追加条項を付帯すると、勤務医が医療事故によって個人的に賠償責任を負った際、契約するときに設定された保険金額の範囲内で、実際の損害額が補償されます。過去に勤務していた医師が個人的に負った賠償責任も補償対象です。

保険金の支払額は、下記の1と2をもとに算出されます。

  1.法律上の損害賠償金:被害者の治療費・入院費・慰謝料・休業補償など

   ※示談・和解による場合を含む

  2.争訟費用等:弁護士費用・訴訟費用・和解や調停に要する費用など

   ※保険会社の事前承認が必要

保険金の支払上限額(保険金額)は、以下の通りです。

             1事故あたりの上限額    1年間の上限額
    1型            100万円     300万円
   10型           1,000万円    3,000万円
   30型           3,000万円    9,000万円
   50型           5,000万円     1.5億円
   100型             1億円      3億円
   200型             2億円      6億円
   300型             3億円      9億円

※加入先の団体によって選択できる型や保険金額が異なる場合があります。

この追加条項は、医療施設に勤める医師の全員を一括で補償対象とします。1人ひとりから同意を得たりする必要はなく、全員の署名・捺印も不要です。補償が開始されたあとに退職・入職した勤務医がいても、中途脱退や中途加入の手続きは必要ありません。

ただし、一部の勤務医のみを対象とすることはできず、保険金額などの条件はすべての勤務医で同一となります。

なお、勤務医が個人で医師賠償責任保険に加入している場合でも、この追加条項が優先して適用されます。

看護職賠償責任保険(包括契約)

看護職賠償責任保険は、補償対象のクリニックや診療所などに勤める看護職の方が、業務中に起こした医療事故により個人的に負った賠償責任をカバーする保険です。

患者またはその遺族から、看護職の方が個人的に損害賠償を請求されたとき、設定された保険金額の範囲内で、法律上の賠償責任を負うことで生じた損害額が補償されます。

正看護師だけでなく、准看護師や保健師、助産師も補償の対象です。すでに退職している人が負った賠償責任も補償されます。

保険金の支払対象となる賠償金・費用は以下の通りです。

  1.法律上の損害賠償金:被害者の治療費・入院費・慰謝料・休業補償など

   ※示談・和解による場合を含む

  2.争訟費用等:弁護士費用・訴訟費用・和解や調停に要する費用など

   ※保険会社の事前承認が必要

保険金の支払上限額(保険金額)は、以下の通りです。

        1事故あたりの上限額      保険期間中の上限額
  K1型        100万円         300万円
  K2型        500万円         1,500万円
  K3型       1,000万円         3,000万円
  K4型       3,000万円         9,000万円
  K5型       5,000万円         1.5億円
  K6型       7,000万円         2.1億円
  K7型        1億円          3億円
  K8型        2億円          6億円

※加入先の団体によって選択できる型や保険金額が異なる場合があります。

クリニックや診療所などで働く看護職の方々の全員を包括的に補償の対象とするため、1人ひとりから同意を得たり、全員から署名・捺印をもらったりする必要はありません。退職や入職にともなう変更手続きも不要です。

一方で、特定の看護職のみを補償の対象にすることはできません。また、保険金額などの条件は医療施設に勤めるすべての看護職が同一となります。

医療従事者賠償責任保険(包括契約)

医療従事者賠償責任保険(包括契約)は、補償対象の医療施設で働いている医療従事者が業務中に起こした事故による個人的な賠償責任を補償するものです。患者の身体に障害を発生させ、法律上の賠償責任を負うことで生じた損害が補償されます。

補償の対象となる医療従事者は、理学療法士や臨床工学技士、診療放射線技師、臨床検査技師など多岐にわたります。また、過去に勤めていた医療従事者が個人的に負った賠償責任も補償の対象です。

クリニックや診療所などで働く医療従事者が行った業務により法律上の責任を負ったとき、あらかじめ決めた保険金額の範囲内でその損害が補償されます。

保険金の支払額は、以下の1と2をもとに算出されます。

  1.法律上の損害賠償金:被害者の治療費・入院費・慰謝料・休業補償など

   ※示談・和解による場合を含む

  2.争訟費用等:弁護士費用・訴訟費用・和解や調停に要する費用など

   ※保険会社の事前承認が必要

保険金の支払上限額(保険金額)は以下の通りです。

        1事故あたりの上限額     保険期間中の上限額
  J1型         100万円         300万円
  J2型         500万円        1,500万円
  J3型         1,000万円        3,000万円
  J4型         3,000万円        9,000万円
  J5型         5,000万円         1.5億円
  J6型         7,000万円         2.1億円
  J7型          1億円         3億円
  J8型          2億円         6億円

※加入先の団体によって選択できる型や保険金額が異なる場合があります。

この保険には「新型コロナウイルスワクチン接種業務に関する追加条項」が自動でセットされています。そのため、ワクチンを接種した人が身体に障害を負ってしまい、医療従事者が個人的に法律上の賠償責任を負うようなケースも補償の対象です。

医療従事者賠償責任保険も他の特約・オプションと同様に、医療施設で働いている医療従事者の方を一括で補償の対象とします。全員の同意や署名、捺印、退職と入職にともなう変更手続きは不要です。

ただし、一部の医療従事者のみを対象とする契約はできず、保険金額などの条件は全員同じとある点も他のオプションと同様です。

傷害見舞費用担保追加条項

傷害見舞費用担保追加条項は、クリニックや診療所などで外来患者や見舞客※などが、突然の予期せぬ事故でケガを負ったときに開設者が支払う見舞金を補償するものです。

※入院患者を除く

法律上の賠償責任の有無や金額に関係なく、開設者が慣習として支払った見舞金が補償されます。

保険金は定額です。被害者1名ごとの保険金額は以下の通りです。

  • 死亡・後遺障害見舞費用保険金:50万円
  • 入院見舞保険金:入院期間に応じて2万〜10万円
  • 通院見舞保険金:通院日数に応じて1万〜5万円
    ※加入先の団体によって選択できる型や保険金額が異なる場合があります。

外来患者や見舞客がケガや後遺障害を負ったときだけでなく、有毒ガス・有毒物質を吸い込んだときの中毒症状なども補償の対象です。ただし、細菌性食中毒やウイルス性食中毒は補償の対象になりません。

医療機関受託者賠償責任保険

医療機関受託者賠償責任保険は、クリニックや診療所などが、患者から預かった時計や補聴器、入れ歯などの身の回り品を返せなくなったときの補償です。

火災、盗難、漏水、取り扱い上の不注意などで、預かっている身の回り品を患者に返せなってしまったことで負った法律上の賠償責任による損害が補償されます。あらかじめ決めた保険金額の範囲内で、実際の損害額から自己負担額を差し引いた保険金が支払われます。

補償対象となる賠償金や費用は、以下の通りです。

  • 法律上の損害賠償金:預かっていた身の周り品の修理費や再調達費用(同等のモノを新たに購入するために必要な費用)
  • 争訟費用等:訴訟費用や弁護士報酬など

※事前に保険会社の承認が必要

再調達費用は、時価額が上限となります。保険金の支払金額(保険金額)は、以下の通りです。

      型(病床数)      保険金額 (自己負担額5,000円)
     X1型(診療所)             50万円
    X2型(20~99床以下)             100万円
    X3型(100~199床)             100万円
    X4型(200~299床)             200万円
    X5型(300~499床)             200万円
    X6型(500床以上)             300万円

※加入先の団体によって選択できる型や保険金額が異なる場合があります。

患者から預かっているものが、現金や貴重品、美術品、有価証券、設計書などの場合は補償されません。また「受託物を患者に返還してから30日以上経過したあとに発見された損害」や「紛失」なども補償対象外となります。

クリニックのリスクに応じた補償を確保することが大切

医師賠償責任保険に特約やオプションを付けると補償を手厚くできますが、保険料負担は重くなり、クリニックの経営を圧迫しやすくなります。

地区医師会の医師賠償責任保険に加入する際は、クリニックで勤める人やリスクなどに応じて適切に特約・オプションを選ぶことが大切です。


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